SHAFT SCIENCE / FREQUENCY
シャフト振動数=硬さではない
CPMと曲げ剛性EIの関係を科学的に解説
「245CPMだからS相当」「数値が高い方が硬い」。こうした説明は、同じ測定条件と近い設計の中では目安になります。しかし、CPMはシャフトの硬さそのものでも、実スイング中の挙動そのものでもありません。測っているのは、クランプ、長さ、先端質量などを含む系の固有振動数です。
VISUAL 01 ─ CPMの守備範囲
CPMが測るのは「条件を固定した系の周期」
CPMから比較できること
- ・同一条件での一次曲げモードの高低
- ・同一モデル内の個体差
- ・同じ組立条件での番手間フロー
- ・修理前後やリシャフト前後の変化
CPMだけでは決められないこと
- ・位置ごとの曲げ剛性(EI分布)
- ・ねじり剛性(GJ)とトルク
- ・減衰、重量配分、振り心地
- ・実スイング中の復元時刻と適合性
01 ─ WHAT CPM MEASURES
振動数(CPM)は何を測っているのか
CPMはCycles Per Minuteの略です。バット側を固定し、先端をたわませて放した後、1分当たり何周期で往復するかに換算します。240CPMなら、1秒当たり4周期なので4Hzです。
Hz(ヘルツ)は、1秒間の繰り返し回数を表す単位です。音や電波の周波数にも同じ単位を使います。異なるのは数えている現象で、ここではシャフトの往復振動を数えます。240CPMを60秒で割ると4Hzになります。
実際に1分間数える必要はなく、測定器は数周期を検出して換算・平均します。
未組立シャフトでは約200~205gの先端錘を使う方法が広く見られますが、条件は一つではありません。Titleistの説明は約200g、東京大学の博士論文に記載された設計現場の一例は196g・固定位置180mmです。完成クラブならヘッド自体が先端質量になります。
VISUAL 02 ─ 測定条件
同じシャフトでも、境界条件を変えればCPMは変わる
有効長 L
長くなるほど固有振動数は下がる
先端質量
重くなるほど固有振動数は下がる
クランプ
固定長・圧力・剛性が実効長を変える
組立状態
ヘッド・グリップ・挿入長が系に加わる
一様な片持ち梁の簡略関係。実際のテーパーシャフトでは、位置ごとのEIと質量分布、先端質量を考慮します。
梁理論では、固有振動数は曲げ剛性EIが高いほど上がり、長さと質量が増えるほど下がります。つまり、CPMはEIだけの関数ではありません。同じシャフトでも長さやヘッド重量を変えれば値が動きます。反対に、EIと質量分布の違うシャフトが同じCPMになることもあります。
02 ─ FAIR COMPARISON
メーカー横断比較には共通試験条件が必要
各メーカーの公表CPMを公平に比べるには、少なくとも次の条件を揃える必要があります。
- ・未組立シャフトか完成クラブか
- ・有効長とクランプ長
- ・クランプ圧と治具の剛性
- ・先端錘またはヘッドの質量
- ・グリップの有無・硬さ・太さ
- ・測定方向とシャフトの向き
- ・たわませる量と計測周期数
- ・使用する測定器と換算方法
シャフト全体を比較するなら、CPMに加えてEI分布、ねじり剛性GJ、重量と重心位置、減衰、完成クラブの慣性条件まで共通試験法で測る必要があります。
03 ─ CPM IS NOT EI PROFILE
CPMと硬さが完全一致しない3つの理由
理由1:曲げ剛性は一本の数値ではなく、位置ごとに分布する
工学的な「曲げにくさ」は曲げ剛性EIで表します。Eは材料の弾性係数、Iは断面形状が持つ曲がりにくさです。ゴルフシャフトはテーパー形状で肉厚と積層が変わるため、EIは先端から手元まで一定ではありません。
VISUAL 03 ─ SAME CPM, DIFFERENT PROFILE
同じCPMでも、どこが曲がりにくいかは違い得る
完成クラブCPMは同じでもよい
概念図です。一本の固有振動数から、位置ごとのEI曲線を一意に逆算することはできません。
東京大学の博士論文では、熟練した設計者が「重量」「トルク」「CPM」「EI分布」を別々の設計変数として扱っています。設計実務でも、CPMとEI分布は同じ情報ではありません。Titleistも、現代のグラファイトシャフトでは複数位置の振動数を測る方が完全な分析になると説明しています。
理由2:CPMはシャフト単体ではなく、測定系全体の値
完成クラブのCPMには、ヘッド、グリップ、接着、ホーゼル挿入長、完成長が入ります。さらに固定方法が変われば、シャフトのうち実際に動ける長さも変わります。「同じシャフトの硬さ」が変化したのではなく、測っているシステムが変わった結果です。
理由3:体感的な硬さには曲げ以外も混ざる
ゴルファーが感じる硬さには、先端・中間・手元の曲げ方だけでなく、ねじり、重量、重心位置、減衰、クラブ全体の慣性が関係します。ミズノも、同一のたわみ量・振動数でも、重量、トルク、調子、ヘッド条件が変われば感じる硬さは異なると説明しています。
したがって「同じCPM=同じ振り心地」ではありません。CPMが近い二本を打って、一方は手元が硬く、もう一方は先端が動くと感じても矛盾ではないのです。
04 ─ WHAT DOES “STIFF” MEAN?
そもそも「シャフトが硬い」とは何を意味するのか
「硬い」は便利な一方、物理的には定義が足りない言葉です。材料、構造、測定値、商品表示、人の感覚が一つの言葉に混ざっています。
| 「硬い」の対象 | 対応する内容 | CPMとの関係 |
|---|---|---|
| 材料が硬い | ヤング率E・せん断弾性率G | 材料特性の一部が振動へ影響 |
| 曲がりにくい | 曲げ剛性EIと位置ごとのEI分布 | 相関するが一本の値には圧縮できない |
| 振動が速い | 所定条件の固有振動数 | CPMが直接表す対象 |
| S・Xなどの表示 | メーカーの商品区分 | 共通の絶対基準ではない |
| 硬く感じる | 人とクラブの相互作用による知覚 | CPMだけでは決まらない |
「しなる」「柔らかい」「戻る」「張りがある」は同義ではない
「しなる」は荷重を受けて変形している状態です。「柔らかい」は、同じ条件なら小さな力で大きく変形する、つまり剛性が低いことを指します。一方の「戻る」は、荷重の変化に伴う弾性回復です。変形量、変形しにくさ、回復運動は別の概念です。
一般の材料では、低剛性だからといって完全に回復するとは限りません。弾性範囲なら元へ戻り、粘弾性なら時間をかけて回復し、塑性変形なら永久変形が残ります。ただし、正常なゴルフシャフトを通常の使用範囲で曲げた場合は、基本的に弾性範囲であり、柔らかいシャフトも戻ります。
外から見えるしなり量と、本人が感じる硬さは一致しない
筆者の販売・フィッティング経験から
私が使っているシャフトは、スイング中に大きくしなります。それを見た周囲の人からは「柔らかいシャフトだね」と言われます。しかし、私自身は柔らかいとは感じません。しなった後の動きに「張り」があり、インパクトへ向かう挙動を合わせやすいと感じています。
一方、ショップで試したLフレックスも大きくしなりましたが、私には戻りを合わせにくく、プッシュ傾向が出ることがありました。これは「Lシャフトが物理的に戻らなかった」という測定結果ではなく、私の体感と弾道結果です。EI分布、ねじり、質量、減衰、スイングの適応など、複数の要因が考えられます。
ここでいう「張り」も単一の物理量ではありません。復元力、応答の時刻、減衰、EI分布などを、人がまとめて受け取った感覚表現です。販売・フィッティングの現場でも、同じシャフトを「硬くて振れない」と感じる人と、そう感じない人がいました。曲げ剛性はシャフト側の客観的特性ですが、感じる硬さは人とシャフトの関係で変わります。
05 ─ TEST BENCH vs REAL SWING
測定器の往復振動と実スイングは別の運動
CPM測定では、静止した台にバット側を固定し、先端をたわませて放します。その後は、測定系が持つ固有振動数で自由振動します。これは再現性のある検査を行うための、よく整理された条件です。
一方の実スイングでは、グリップ端そのものが移動します。手元から入る力とトルクは時間とともに変わり、クラブは回転し、軸力、リード/ラグ方向の曲げ、トゥアップ/ダウン方向の曲げ、ねじりが同時に起こります。手と腕には動きと減衰があり、剛体クランプでもありません。
VISUAL 04 ─ FREE VIBRATION vs TRANSIENT RESPONSE
測定器の反復振動と、実スイングの過渡応答は別の運動
CPM測定
初期変位後の減衰自由振動
静止台・固定端・一定の先端質量で、数周期から固有振動数を読む。
実スイング
時間変化する荷重による過渡波形
手元が動き、力とトルクが変化し続ける。実測には単峰・二峰・ランプ状などがある。
ただし「すべてのゴルファーが厳密に一往復だけ」とも言い切れません。Jonesらが12名の熟練ゴルファーを調べた研究では、実打中のひずみ波形に単峰、二峰、ランプ状といった違いが見られました。同じゴルファー内の波形は、シャフト剛性を変えても他人同士より似ていました。シャフトの応答は、シャフトだけでなくゴルファーの入力にも強く依存します。
このため、CPMを「実スイング中のしなり戻り速度」と言い換えるのは正確ではありません。自由振動の周期を測っているという意味では復元の速さと関係しますが、実打でいつニュートラルを通過し、どの向きでインパクトするかを直接測ってはいません。
06 ─ MEASURE THE GOLFER’S INPUT
CPMで見えない「人がシャフトへどう入力したか」を測る
CPMは、クラブ側を決めた条件で測る試験です。一方、フィッティングで知りたいのは、ゴルファーがスイング中にシャフトへどのような負荷を、どの時刻に加えたかです。この入力側を可視化する計測システムもあります。
SLAP / SHAFT WAVE
センサーを用いてスイング中のシャフト負荷を測定し、フィッティングへ利用するシステムです。SLAPは2025年9月30日で新規販売を終了しましたが、既存導入例があります。
GEARS
複数の高速度カメラでグリップとヘッドを追跡し、スイング中の上下・左右のしなりやねじれを数値化します。クラブと身体の運動を同時に確認できる点が特徴です。
少佐がいう「シャフトへエネルギーをどうかけているか」を調べる発想は、フィッティング上とても重要です。ただし、センサーが直接測る量と、そこから計算・推定する負荷やエネルギーは区別する必要があります。機器の解析結果だけで決めず、同じクラブで複数球を打った再現性、フェース姿勢、打点、弾道、本人の感じる張りや合わせやすさと一緒に評価します。
なお、ShaftMax(シャフトマックス)はSLAPとは別に紹介されてきたセンサー式の計測器です。今回確認できた一次資料が限られるため、両者を同一製品として扱ったり、測定値の詳細を断定したりはしません。
07 ─ HOW TO USE CPM
CPMが役立つ場面、判断を誤る場面
| 使い方 | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 同一モデルの個体差確認 | 有効 | 条件を固定しやすい |
| アイアンセットの周波数フロー | 有効 | 番手間の変化を管理できる |
| 修理前後・リシャフト前後 | 有効 | 同じ測定系で差分を追える |
| 条件不明のメーカー公表値比較 | 不可 | 境界条件が一致しない |
| CPMだけで調子・弾道を予測 | 不可 | EI分布とGJが欠ける |
| ヘッドスピードから適正CPMを断定 | 不可 | 荷重のかけ方とクラブ慣性が欠ける |
08 ─ EIGHT CHECKPOINTS
シャフトを科学的に比べる8項目
- 01
完成長
振動数とクラブ慣性の前提
- 02
ヘッド重量・クラブ慣性
シャフトにかかる負荷を左右
- 03
シャフト重量・重心位置
振り心地と入力を左右
- 04
同一条件のCPM
一次曲げモードの比較
- 05
EI分布・多点振動数
どの部位が曲がりにくいか
- 06
GJ・トルク・減衰
ねじれと振動の収まり方
- 07
実打中の入力・応答
負荷、しなり、ねじれと発生時刻
- 08
弾道と本人の再現性
打点、フェース、打ち出し、スピン、体感
09 ─ FAQ
振動数と硬さのよくある質問
Q. CPMが10高ければ、必ず硬いですか?
A. 同じ測定条件で、長さ・質量・設計が近い比較なら、曲げにくい傾向を示します。条件やEI分布が違えば、シャフト全体の硬さを断定できません。
Q. 同じCPMなら、同じ振り心地ですか?
A. 同じとは限りません。EI分布、ねじり剛性、重量、重心位置、減衰、完成クラブの慣性が残ります。
Q. CPMはしなり戻りの速さですか?
A. 自由振動の周期という意味では関係します。ただし実スイングの復元時刻やインパクト時の姿勢を直接測った値ではありません。
Q. 大きくしなるシャフトは柔らかいですか?
A. 同じ荷重と境界条件で大きく変形するなら、曲げ剛性が低いとは言えます。ただし、外から見えるしなり量だけで本人の感じる硬さや張り、インパクト時の挙動までは決まりません。
Q. ヘッドスピードから適正CPMを決められますか?
A. 候補を絞る参考にはなっても、一意には決められません。切り返し、手元の加速度、クラブ慣性、本人の適応を含めて試打する必要があります。
Q. SLAPやGEARSなら適正シャフトを決められますか?
A. 入力と実打中の応答を知る有力な資料になりますが、それだけで一意に決まるわけではありません。複数球の再現性、弾道、本人の感覚と組み合わせて判断します。
Q. ではCPMは信用しなくてよいのですか?
A. いいえ。用途を限定すれば再現性のある有用な管理値です。数字を捨てるのではなく、数字の守備範囲を理解することが大切です。
CONCLUSION
振動数は硬さの「答え」ではない
CPMは、定めた条件における固有振動数です。同一条件内の相対比較や品質管理には役立ちます。しかし、EI分布、ねじり、質量、減衰、実スイングの入力まで一本の数字で説明することはできません。「しなる」「柔らかい」「戻る」「張りがある」も同じ意味ではありません。
CPMは答えではなく、条件を理解して使う一つの目安です。CPMを捨てず、CPMに背負わせすぎないことが重要です。
VIDEO ─ 動画で理解する
本記事の内容は、姉妹チャンネル「くまンモGOLF」の解説動画でも扱っています。CPMの測定の仕組み・「硬い」の5つの意味・実スイングとの違いを12分で整理しています。
RELATED TERMS
SOURCES ─ 2026-07-17確認
- 01Titleist|Shaft Performance Guide— 約200gの先端錘、多点振動数、メーカーごとの試験法差
- 02ミズノ公式|シャフトの硬さの基準— 振動数・たわみ・重量・トルク・調子を総合評価
- 03東京大学博士論文|個人のスイング特性に応じたゴルフシャフトの最適設計— CPMとEI分布を別の設計変数として記載
- 04日本機械学会|スイング中のゴルフクラブシャフトのしなりに関する考察— EI分布と実打中の曲げひずみから変形を解析
- 05Sports Engineering|Differences in shaft strain patterns— 実打ひずみの単峰・二峰・ランプ状波形と個人差
- 06Sports Biomechanics|Effects of golf shaft stiffness on strain, clubhead presentation and wrist kinematics— 低剛性シャフトの変形・回復と、グリップ運動を含む実打応答
- 07MIT OpenCourseWare|Elasticity and plasticity— 回復可能な弾性変形と、永久変形が残る塑性の区別
- 08ノビテック公式|SLAP / Shaft Wave— スイング中のシャフト負荷を測定するフィッティングシステム
- 09ノビテック公式|GEARS— グリップとヘッドを追跡し、シャフトの上下・左右のしなりとねじれを数値化
- 10ノビテック公式|SLAP販売終了のお知らせ— 主要センサーの供給終了により2025年9月30日で新規販売終了
- 11NASA|Cantilever beam free-vibration equations— 片持ち梁の固有振動数とEI・質量・長さの関係
UNIT GLOSSARY ─ このページで使った単位
数値が大きいほど・小さいほど何が変わるかを、中学校の理科レベルで噛み砕きます。
CPM
Cycles Per Minute。固定したシャフト/クラブ系の固有振動数を、1分当たりの周期数で表した値。
↑ 大きい同じ測定条件なら、一次曲げモードの周期が短い。曲げ剛性が高い傾向。
↓ 小さい同じ測定条件なら、一次曲げモードの周期が長い。曲げ剛性が低い傾向。
EX240 CPM = 4 Hz。比較には長さ・先端質量・クランプ条件の統一が必要。